今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場はビールメーカーだ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
朝早くからビールも飲んだ。
勿論ライバル会社のビールだ。
面接の開口一番に言ってやる。
味がイマイチで後味が悪いですねと。
ネガティブキャンペーンは人事にかなり通用するはず。
ぶっちゃけビールは飲まない派だから、メーカー毎の違いは分からない。
そんな私が何故ビールメーカーに入社したいか問われたら困る。
そこは持ち前の明るさで乗り切ろう。
さて、面接会場に来た。
山奥の廃屋である。
あれっ、騙されてね?
と思ったが仕方あるまい。
私は立場上弱者だ。
先方のいいなりだ。
犬だ。
餌さえ貰えればキャンキャン鳴く。
色んな犬の鳴き声シリーズもネタとして仕込んだ。
待ってろよ、ビビらせてやっから。
10点、10点、10点、9点、10点とか札上げる光景が容易に想像できる。
おい、9点君。
ちょっと採点が厳しくないかい、と突っ込むことも忘れない。
万全の態勢で臨む。
ちなみに約束の時間はとうに過ぎている。
おかしい。
まさか既に見られているのでは。
薄暗くなった周りを携帯の画面を駆使して見渡す。
分からん。
多分、人事部総出で隠れている筈だ。
最終手段を使おう。
赤外線暗視スコープだ。
見てろよ、人事。
一網打尽すっから。
おもむろに鞄からそれを出す。
ジャッジャジャーンという効果音付きで。
反応はない。
相当なやり手とみた。
後で後悔するぞ。
私はそいつを着けてぐるっと見渡した。
もちろん携帯画面を駆使して。
森の奥の方に二つの影が折り重なっている。
ほぅ、人事部は2人とな。
そっちの方角に歩き出す。
影が動く、私は走る、影も走る。
汗だくになりながら影を追う。
途中で服が散乱している現場を見た気がした。
影が二手に分かれた。
上司はどっちだ。
私の感が左と答えた。
走る、逃げる、走る、逃げる。
夜の風が気持ちいい。
待ってろよ。
汗だくの中でプレゼンしてやっから。
追いかけている影がこっちに向かって叫んでいる。
この変態、こっち来るな、と。
おいおい、上司は女かよ。
少々手荒いが石を投げつけた。
軽やかにかわされたのを見て、やっぱ一筋縄ではいかないことを悟った。
渾身の力を込めて走った。
影の後ろ姿があらわになる。
結構若いな。
もしかして、右が正解だったのかもしれない。
ここまで来たらタッチするまで追いかける。
タッチした瞬間。
君、合格。
と言われるのを夢見て。
!!
痛い、足がつった。
ヤバイ、ヤバイ。
足が足を引っ張る。
はっ、と思ったらまだ家の中だった。
ヤバイ、寝過ごした。
約束の時間はとうに過ぎている。