はい、そうです。
何度も言いましたが。
そっちの臭いのキツイ有機物とは違います。
外見が似てるのでよく間違われます。
私、味噌です。
もうすぐゴールデンウイークということで外の人間は長期休暇というやつを取るそうです。
そのため、冷蔵庫の中はいつもより広々としており、ひっそりしています。
ママ、最近新しい人来ないね。
みんなお外に行って帰って来ないね。
迷っちゃったのかな。
という子供の声に何て答えればいいか分からず思わず抱きしめてしまいました。
外に出るなら子供と一緒。
それだけは祈るしかない。
何があっても子供は守る。
例え、その後に何があろうとも。
私は小さい時の記憶が余りないです。
暖かい太陽の日差しの中ですくすく育ってた気がします。
土の匂いを感じていましたね。
自分の体がどんどん変化して、大きくなっていく。
すぐそばにはママがいて、パパがいて。
とても穏やかに過ごしていました。
鳥のさえずり、川の音、風の音。
色んな音が私を楽しませてくれました。
ある日、今までとは違う乗り物がやってきました。
シュウカクという言葉を叫びながら、それは楽しそうに仲間達を連れ去って行きました。
大丈夫だよ、大丈夫だよ。
ママとパパは私に話しかけていました。
大きな乗り物が近くにきた時、ママとパパは泣いていました。
見ちゃダメ、見ちゃダメ、絶対守るよ、守ってみせると叫んでました。
そして。
何かが私に触れたと思った瞬間、意識は飛びました。
ごめんね、という言葉を聞いた気がします。
そこから急に記憶が飛んでしまいます。
次に覚えているのは、床の下の暗闇に押し込まれた場面です。
そして、今に至ります。
あの時、パパとママは守ってくれなかった。
ママとパパは嘘つきでした。
私は絶対に守れる自信があります。
そんなことを思いながら日々を過ごしました。
ある晩、突然冷蔵庫が空きました。
人間が近づいてきます。
私の中で時が止まりました。
まさか。
人間が手に持ったのは長老である梅干しさんでした。
その汚い手を離せっ。
そう言いはなつと長老はまた冷蔵庫に戻ってきました。
長老のおかげでどうすれば外に行かずに済むか教えて貰いました。
これで安心して眠れる。
そう思うと、まぶたが重くなってきました。
ママー、長老がお外に行っちゃった。
そんな言葉でいきなり起こされました。
何故?何故?
ついに長老もあっちの世界に行ってしまった。
外で長老の声が聞こえました。
他のみんなとは違い堂々と。
また、冷蔵庫の中に戻ってくるに違いないと確信しました。
何か言わんか。
このバカモン。
わしを誰だと思っている。
これでも長い間、冷蔵庫の中で生きてきたんだ。
おい、つまむな。
早く降ろしなさい。
冷蔵庫の中に私を戻しなさい・・・
モグモグ
んー、しょっぱくて美味しい。
長い間寝かした甲斐があったね。
長老の声は小さくなりましたが、まだかすかに聞こえます。
さようなら。
永遠に。