ここだけの秘密ですが。
巷で噂のヒーローって俺のことなんですよ。
困ってる人を見つけてサクッと助けちゃおうかと思ってですね。
そんな感じで銀座にやってきたんですが、びっくりするくらいのアウェー感を突きつけられてですね。
そりゃあ、オシャレとか縁のないくたびれたおっさんにしか見えないですからね。
その時悟ったんですよ。
みんなから助けて欲しいと思われてるんじゃないかと。
何てったって目は死んでますからね。
ズボンもオシャレじゃない感じで、ずり落ちてますし。
俺ヒーローなんですけど、って死ぬ程言いたかったんですが弱気な自分が出ちゃいまして。
ただ呆然と人の行き交う交差点を見てたんですね。
すると何処からか声がするんです。
振り返ると占い師のおばさんがいまして。
多分、そのあたりから声がしたと思ってキョロキョロしてたんですよ。
今度は間違いなくその占い師が声を出すのを見届けたので、近づいて行ったんですね。
いきなり占ってしんぜよう、とか言って手のひらをこちらに向けてくるんですよ。
その手をですね、こうやってサッとかわして、背後に回り、一気にスリーパーホールドを決めたんですよ。
タップされた気がしましたが俺も気が動転してて。
あわわ、とか言ってるのか言わされてるのか分からない声をあげたところで許してやりましたよ。
もうこの時点で既に人だかりが出来ていてですね。
見世物じゃねぇぞこらぁ、とか叫びたい気持ちをグッと抑えて様子を伺ってたんですよ。
そうこうしてるうちに占い師がムクッと起き上がって、何やらみんなに向かって手のひらを向けて呪文を唱えてるんですよ。
あっ、これやばいやつだわ。
呪われる一歩手前のやつだわってみんな軽くパニクっちゃって。
ある程度まで下がって安全を確保すると人間って不思議なものですよね。
好奇心が湧いてくるんです。
ちょっとずつ近づく輩も増えてくるんですよ。
俺もヒーローなんでもちろん行きましたよ。
何かあったらヤバイのでみんなの陰に隠れてこっそりと近づいたんです。
そしたら、占い師はまだブツブツ言ってるんですよ。
よーく耳を澄ませて聞いてみるとゾッとしましたね。
・・・
その時じゃ、閃光のようなワシの回し蹴りが綾子の後頭部に直撃したんじゃ。
首から落ちる際、綾子のすがるような目を見たが知らん。
ワシの勝ちじゃ、榎田君はワシがもらう。
誰にも邪魔させん。
誰が奪うかの女の真剣勝負に勝ったんじゃから、榎田君はワシのもんじゃ。
綾子がこっちを向いて何やらブツブツ言っておるが気持ち悪いのぉ。
あぁいう女にはなりたくないわい。
さて、ワシはゆっくりと獲物である榎田君を確保せねば。
ほら榎田君、こっちに来んさい。
ほぇほぇ、逃げても無駄じゃ。
ワシはお前を気に入った。
それが全てじゃ。
昔から我が家に伝わる一子相伝の技を見るがいい。
恋する乙女が狙った獲物を痺れさせて、家まで何なく持って帰れる必殺技。
こう手のひらをお前に向けてじゃな。
こう唱える。
榎田君、みーっけ。
ほら、どうじゃ意識が朦朧としてき・・・
占い師は遠くを見つめながらブツブツ言ってましたね。
つまり俺は獲物だったわけですよ。
ヒーローって書かれた胸のワッペンを見て勘違いしたんですね。
あっぶね、超あっぶね。
ヒーローみっけられるとこでしたよ。
もう少しで更なる大人の階段登るとこでしたね。
もう戻ってこれないとこまで行き着いて、終いにはこの辺りで手のひら向けてたかも知れないですよ。
あの、聞いてますか?俺の話。
こっから俺が無差別通り魔事件を解決するまでの長い物語を聞いて下さいよ。
えっ?時間がない。
やだなぁ、そんな冗談ばっかり言って。
分かりました、分かりましたよ。
結論から言うとね。
生活保護費が今度減らされるじゃないですか。
なんか法案通ったっぽいし。
俺、ただでさえヒーローで支出多いんですよ。
何とかならないですかね。
あっ、そう。
そう言えば職員さんの名前聞いてなかったね。
なんて言うのですか?
ダメ?
何でですか。
俺が手のひら向けてるからですかね。
もうあなたには頼みません。
喰らえ。
職員さん、みーっけ。
ちょっ、まだ話終わってないんですよ。
ジョークですよ、ジョーク。
ちょっとぉ、生活保護打ち切りはないでしょ。
それとこれとは関係ないでしょ。
この前折角復活したばかりなのに。
お願いしますよ。
あれっ、何か落としましたよ。
定期ですか。。
梶田さん、みーっけ。