俺の息子にスリーパーホールド

雑記をベースにたまに息子とのやりとりを書いていきます。色んなもののレビューも興味あり。

コンビニ業界への転職

今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場はコンビニ運営会社だ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
いつもは最寄駅にある緑のコンビニを使うのだが今回は少し歩いたところにある青のコンビニを使った。
面接での掴みもバッチリだ。
とにかくがむしゃらにアピールしよう。
もう元嫁にバカにされてたまるか。
安定収入を得るようになって見返してやろう。
あの日の罵倒を俺は忘れない。
子供の目の前でこれでもかとやり込められた屈辱。
今じゃ中学生になる娘も俺のことをバカにし始めている。
月に一度の楽しみだったのに。
お財布だと思ってるのか。
なめやがって。
俺の本気を今日ぶつける。
そして勝ち取るんだ。
そんなことを考えながら俺は切符を買って電車に乗った。
いつもは落とした切符がないか散々探した挙句、乗らないのが当たり前だったのに。
変わろうと思えば変われるものだ。
電車に揺られてるとふと気づいたことがある。
何故かみんな俺の方を見ているのだ。
ダブルの白いスーツでバッチリ決めて、髪も8:2分けでカッチリ決めている。
なんだ、なんだ。
この違和感。
まさか間違っているのか。
それともそれ以外の部分で注目を浴びているのか。
それ以外の部分。
いやぁ、そこはないでしょ。
そりゃ最近ご無沙汰でちょっと気持ち大きくなってるけど。
この歳になってもたまに巻尺で測ってるけど。
奥さん、一緒に測りませんか?
とか言いたいのを我慢してキッと睨みつける。
目をそらすそらす。
おいおい、まるで俺がなんだか危ないやつではないか。
まてよ。
まさか人事の方が既に監視してるのか。
全くコンビニ業界は罠が一杯でしょうがない。
受けて立とうではないか。
まずはお前、正面のお前だ。
冴えない主婦っぽいが実は権力を振りかざす立場の人事リーダーとみた。
よし、まずはお前から攻略しよう。
おもむろに国語辞典を出して、吊り広告にあるキーワードを調べる。
世の中の動きに敏感にアンテナ張ってるやつアピールさ。
リーダーはまだ眠そうな顔をしている。
もしかしてど近眼で国語辞典が見えてないのか。
その手には乗らない。
幾人ものお祈りメールを出した輩だ。
ポーカーフェイスは慣れたものってか。
無駄無駄。
俺はこう見えて血液型はAなんだよ。
ふふ、見える見える。
心の動揺が見える。
念のためもうひと押ししてみるか。
バサッ。
あえてリーダーの前に国語辞典を落としてみる。
くぅ、その目つきたまらんね。
そうなんですよ。
俺アンテナ高いんです。
あっ、ありがとうございます。
普通に取ってくれた。
感謝の言葉と共にウインクまでしてあげた。
フレンドリー、俺って超フレンドリー。
アンテナ高くて、フレンドリーな俺見せつけちゃいました。
さてと、仕上げに行きますか。
Tシャツをまくって、上腕二頭筋を見せつける。
目を見開いた。
やはり人事はお前だったか。
分かるよ、今のあなたの気持ち。
手に取るように分かる。
コンビニ業務では力作業が約95%と聞いている。
ふふふ。
適性診断で二重丸ゲットですな。
おっと、目的の駅に着いたようだな。
奴は降りない。
と、見せかけてのダッシュで降りるってか。
芸が細かいねぇ。
しょうがない、こちらから声をかけるか。

すいませんっ。
あのもし宜しければ私と話しませんか。
コンビニ業界について。

誰か~、変な人が誘ってきます。

おいおい。
急に声を荒げたよ。
女狐め。
まだ俺を騙そうというのか。
いや、もしかして変な人対策のロールプレイ中なのか。
この茶番に付き合ってあげようではないか。

へへへ。
俺と仲良くしようぜ。
大丈夫。
悪いようにはしないから。
さぁ、行こう。
あの希望の丘に。

あれ?
逃げ出したよ。
待てって。
まてよ。
まさかとは思うが。
ただの主婦だったということも考えるんだ。
すると今までの俺の行動は完全に不審者。
もしかして隣にいた50代くらいのバーコードのおっさんがリーダーだったのか。
分からん。
分からんがとにかく逃げた方がいい。
俺は線路に降りたつと一目散に駆け出した。
後ろから凄い形相で駅員が走ってくる。
やばい。
完全に痴漢して逃げる男のシーンだ。
違うんだ。
冤罪なんだ。

・・・

そうなんです。
ですから面接の時間に遅れたんですよ。
えっ?
見てた?
あっ、あのバーコード。
うわぁ、やられたぁ。
そっちかい。
主婦はおとりかい。
あっ、取り乱してすいません。
とにかく私は御社の期待に応えられる男です。
見てくださいよ、この上腕二頭筋。
あっ、電車の中で見てましたね。
分かりました。
ほんとうは隠しておきたかったのですが。
この右拳を見てください。
空手ダコです。
正拳突きの成果です。
えっ、不採用?
なんでですか。
不審者もこの右手で退治できますよ。
ちょっ、待ってくださいよ。
分かりました。
週4入ります。
もちろん土日もどちらかは必ず出ます。
ダメ?
そうですか。
ボディガードとか必要ないですか?
そうですか。
分かりました。
自宅警備に戻ります。