今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場は鉄道会社だ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
かなり早起きをして旅立った。
約束の地に既に着いて30分。
まだ約束の時間までに2時間ある。
少し早過ぎたか。
一旦外に出て喫茶店へと入る。
気分を落ち着かせるためタバコをくゆらす。
徹夜で電車でGOをやったので目が痛い。
ベストタイムも更新した。
停車位置もミリ単位で調整してきた。
これ以上ないくらいに仕上げてきたんだ。
ふふふ。
履歴書だけで採用されそうだな。
電車の運転に関しては俺の右に出るものはいない。
電車でGO歴は10年。
毎日6時間はプレーしてきた。
履歴書と職務経歴書はひたすら電車でGO関連で埋めた。
そろそろ約束の時間だ。
重い腰をあげて目的の会社の目の前まできた。
社員通用口は左、訪問者は右か。
気持ち的には左だが、ここは俺が折れよう。
受付に着いた。
名前を書いてお待ち下さいときたもんだ。
何人もいる中途面接で印象に残らなければいけないな。
そうだな。
名前はドドリアにしよう。
ドドリアさん、って呼ばれたときのインパクトは計り知れない。
絶対呼ぶ時にフリーザの声色を意識するはずだ。
履歴書ももちろんドドリアに変えた。
さぁかかってこいよ。
おっと、呼ばれるかな。
受付のお姉さんがちょっと戸惑っている。
呼べよ、呼んじゃえよ。
楽になれよ。
そう念じること5分。
ついにお姉さんは勇気を持って呼んだ。
ドドリアさん、ドドリアさんはいますか?
スッと立ち上がる俺。
カッコいい。
ライバルたちも俺に注目している。
中へと入っていく。
面接官は10人か。
ちと多いな。
対してこちらは3人。
いや、こいつらは仲間じゃないから1対10か。
ちょっとしたイジメだな。
まぁいい。
聞いて驚け。
俺の経歴で。
あっ、はい。
ドドリアです。
本名です。
ドが苗字です。
分かりました。
それでは始めます。
ドドリア、25歳。
現在の職業は小学生の見張り隊です。
地域安全課に所属してます。
いえ、自称です。
私は常々鉄道会社に憧れていました。
10年の時を経て、満を持してやってきました。
あなたたちは奇跡を見ることになります。
職務経歴書を読めば分かります。
あなたたちは涙するでしょう。
えっ、分からないですかね。
本来人に話すことではないのですが。
話しましょう。
あなたたちは幸運ですね。
おほん。
私、電車でGO歴が長くて、そんじょそこらのオタクには負けません。
多分本職の運転手にも匹敵するレベルです。
それこそオヤツ食べながらでもミリ単位で調整出来ます。
あっ、すいません。
停車位置のことです。
はい、停車位置は極めて重要なことだと思います。
運転手の募集ですよね?
総合職?
何ですかそれは。
あぁ、それなら総合職でいいです。
ミリ単位で調整します。
人の心ですよ。
コミュニケーション能力は非常に高いので問題ないと考えます。
学歴ですか。
惜しまれながらの中卒です。
いえ、惜しまれたんです。
進学校への推薦の話もあったんですよ。
でも、ゲームの時間がなくなるかなと思ってあえてスルーしたんです。
いえ、あえてのスルーです。
才能に溢れてるんです。
ほら、こうやって話していても皆さん引き込まれてますよね。
どこでも私は中心でした。
えっ、私のことですか?
ザーボンさんではありません。
ドドリアさんです。
面白い方ですね。
近くに喫茶店があるあるので小一時間ほど話しませんか?
そうですか。
ところで総合職でも運転技術は必要ですよね。
確か最初の1年は現場を知るために運転しますよね。
私はその必要はないです。
既に現場の雰囲気を感じ続けていますから。
えっ、もう終わりですか?
まだ話し足りないのですが。
まぁいいでしょう。
合格、で宜しかったでしょうか。
何でですかね。
それは話が違いますね。
私を落として誰が受かるんですかね。
まさか隣にいるメガネ君じゃないでしょうね。
勘弁して下さいよ。
えっ、メガネ君じゃない?
フ、フリーザ様?
またまたぁ。
私を驚かそうとしてもダメですよ。
履歴書見せて下さい。
!!
確かにフリーザと書いてますね。
そうですか。
分かりました。
あなた合格です。
私の権限で。
譲りますよ、私の合格を。
こうして私の転職活動は惜しまれつつ終わりを告げた。