今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場は炭酸飲料販売会社だ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
背中に背負ったリュックが重い。
もちろん炭酸飲料をどっさり持ってきている。
チッチッチ。
そこまでする必要があるかって。
念には念を入れるタイプなんですよね。
ちょっとお化粧のノリが悪いのは難点だったけど昨日からずっとこれしか飲んでないの。
膨らんだお腹に夢と希望と勇気を詰め込んでいざ出陣。
可愛らしく振舞うことは慣れているの。
そうやって指名を稼いできた。
NO.1には慣れなかったけどヘルプでも食べていけた。
でももう夜の仕事は終わり。
夜の蝶は昼に舞台を移したの。
面接官?
余裕、余裕。
何人の男を手玉にとってきたと思ってるの。
脇毛の数じゃ足りないくらい。
ほほ、ごめんあそばせ。
でも面接官が女だったらどうしようか。
それが一番怖いな。
私のキャラが逆に仇になりかねない。
ドアを開けた瞬間に方向性を決めなきゃ。
時間はまだまだある。
午後の面接時間までパチンコ屋で暇を潰すこにしようかな。
たばこも吸わないとやってられない。
匂い対策として板状のブルーベリーガムも買ってきた。
ゲッ、ウップ。
ゲップが朝から止まらない。
それはそうと私は新しい炭酸飲料を考えてきた。
驚くぞぉ。
採用面接でいきなり企画書を出されるんだから。
この時点でライバルに一歩リードですな。
その後、企画書の説明から一気に新製品の発表までいこうかな。
さて、時間だ。
汗脇パッドで脇を冷やす。
イケル、イケル気がする。
待合室で待つこと10分。
私の名前が呼ばれた。
特別応接室という札のかかった部屋へ通される。
面接官は3名。
全員が女。
マジか、マジですか。
いきなりピンチだ。
しょうがない、出来る女アピールに変えよう。
上目遣いと髪の毛をあげる仕草も禁止。
あっ、はい。
それでは自己紹介から始めます。
私、ビバ横須賀と申します。
いえ、生粋の江戸っ子です。
今日はみなさんにお知らせがあります。
山田くん、じゃなかった山田さんこれを配って下さい。
山田さんじゃない?
小さいことは気にしないで下さい。
タイトルを見てお気づきだと思いますが今から新商品の企画書のプレゼンをします。
えっ、時間がない?
分かりました、結論から言います。
納豆スカッシュを作りたいです。
はい、納豆です。
健康志向です。
半分、茶色です。
ネバネバ感は残しつつのどごしにも配慮したハイブリッドです。
企画背景や現行商品の問題点、本商品目的、販売目標、SNS炎上方法ついてはお配りの資料に後ほど目を通して下さい。
とにかく納豆推しです。
新しい味覚にどっひゃー間違いないです。
えっ、もう終わりですか?
短くないですか。
もう少し話をさせて下さい。
はい、知ってますよ。
御社のホームページは隅から隅まで舐めるように見ました。
販売会社?
確かにそうですね。
新商品の企画はメーカーが実施するのが普通かも知れません。
そこで質問です。
あなたたちはメーカーの発表する新商品に満足していますか?
今こそ下から突き上げるべきです。
下請けの力を過小評価しているあいつらに一泡吹かせましょう。
任せて下さい。
私がリーダーとなって音頭を取りますから。
はい、企画の経験はあります。
新しいカクテルを何個か作りました。
大体、この辺かなっつって適当に色々混ぜて感覚で作りました。
カルーアミルクは大体何でも合うんですよ。
意外だなぁと思って。
はい、夜の蝶です。
高嶺の花です。
すいません、あなたたちは同性なので私の魅力の5分の1しか伝わってないです。
ちょっと勘弁して下さいよ。
不採用なんて私の人生の汚点ですよ。
あっ、納豆ミルクとかどうですか?
炭酸飲料への反逆とか広告うって。
ダメですか。
しょうがないですね。
親会社の炭酸飲料メーカーの採用面接に臨みます。
あなたたちの今の言葉、私は一生忘れない。
愚民どもめ、後悔するがよい。
・・・
ふぅ、妄想終わり。
最後の締めの言葉は、ひざまづくがよい、の方がいいかな。
ふふ。
そろそろ面接の時間だから軽く合格して、常連にピンドン入れてもらおっと。