今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場は埋蔵金発掘会社だ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
既に会社の前まで来た。
近くの公園のベンチに座る。
スマホいじりに勤しむ。
改めてこの会社のホームページを見ると胡散臭い。
今時、埋蔵金発掘という伝説に挑んでる事業内容に衝撃を受けてしまった。
でも、俺は直感を信じたい。
俺はここで夢を発掘する。
取り分は7対3と噂されている。
額が額だけにあまり気にしない。
あえてスーツではなく探検家の格好をしてきた。
日焼けした肌に迷彩服と麦わら帽子がとても似合うと自負している。
子供達が足を止めてニヤニヤと私を見ている。
少し若者と話をしてみよう。
そうだよね。
珍しいよね。
昼間の公園でこんな風貌の人いたら不審者だよね。
でもね、お前たち。
世の中にはとんでもないニッチな事業から栄光を勝ち取る人間がいるんだよ。
まさに目の前にいるおじさんのことなんだ。
バカにされるのは慣れてる。
キラキラしているお前たちでは分からない。
若さという武器がいつまで続くかな。
歳を取っていくたびに世の中の無情さに気づくよ。
俺も昔は若かった。
キラキラしてたし、ギラギラしてた。
無茶なことをやって、警察に捕まる一歩手前までいったこともある。
この麦わら帽子被ったおじさんがだよ。
信じられないよね。
もうおじさんも遥か昔のことであまりよく覚えていないんだ。
隣にいる友達が明日には敵になってることもあるんだよ。
俺の人生は裏切りの連続だった。
お前たちに言いたいのは、とにかく人を信用するな。
親も友達も先生も何もかも。
信用したら負けだ。
おじさんは埋蔵金だけは信じてるけどね。
知ってる?
徳川埋蔵金の話。
昔の偉い人が凄い量のお金を隠したんだ。
多分税金逃れだと思うけど。
世の中には色んな諸説があるんだけど、おじさん的にはこの公園に埋まってると考えているんだ。
ほら、あの砂場を見てごらん。
何となく水で湿ったところ、怪しくない?
掘ってみたらとんでもないモノが出てくるかもよ。
いや、犬のフンとかじゃなくてさ。
お前たち、大人の話を茶化すんじゃない。
ったく、世も末だよ。
子供は意味を知らなくていいの。
ところで君たち、おじさんと一緒にパーティーを組んで埋蔵金、いや、宝探しをしないかい。
うん、うん。
そうだね。
明らかに変なおじさんからパーティーになろうと言われてもね。
その不安な気持ちわかるよ。
でも人生はさ、行くと決めた時に行かないと後から後悔することもあるんだよ。
そう、そこの君。
いい目してるね。
その調子でおじさんの胸に飛び込んできなさい。
そう、そのままでいい。
いいんだ。
抱きしめた瞬間、おれは変質者になるかも知れない。
いや、すでに通報されているかも。
いいんだ。
俺はお前たちの可能性に賭けたい。
さぁ、パーティーを組もうじゃないか。
おいおい。
写メはやめてくれよ。
パーティーじゃないか。
あっ、そっちのパーティーじゃないの。
いいかい、仲間のことなんだ。
おい、待ちなさい。
何で逃げるんだ。
待ちなさい、おじさんに夢見させて逃げるなんて許さない。
一緒に来て、おじさんと面接を受けなさい。
会社に入るためには人事という人に認められないといけないんだ。
おじさんは無敵だから大丈夫。
違う、違う。
そっちの無敵じゃない。
敵がいないんだよ、同じレベルのステージに。
おじさんかい?
今は無職だよ。
ピッカピカの1年生になるつもりさ。