今日から生まれ変わる。
もうこんな日常からはおさらばしたい。
何をやっても上手くいかなかった日々。
思い出すだけでも泣けてくる。
神様はきっといる。
今日の戦いの場はシューズメーカーだ。
落ち着いて履歴書と職務経歴書を見直す。
大丈夫だ、面接対策も十分にシュミレーションした。
よし、行こう。
足にはもちろんこの会社のシューズ。
スーツにシューズを合わせる時代が来るなんてびっくり。
少し前にあった素足でローファーくらいの驚き。
奇抜な時代がまたやってくるかも。
雪駄に白の足袋が次に来るか。
ちと冒険が強すぎたかな。
手作りシューズとか流行るかも。
簡単組み立てキットみたいな物が売り出されて、独自のシューズを履くのがオシャレみたいな。
ヤバイ、来そうな気がして来た。
改めて自分の足元を見る。
普通。
スーツにシューズって、普通過ぎだ。
まずいのか、このままで良いのか。
流石に手作りは時間的に無理だが手作り感は出せるかも。
例えば、あえてかかとの部分を切り取って違う色の皮をツギハギしてみてはどうだろう。
善は急げだ。
100円ショップを探してハサミを購入する。
皮はそこら辺に落ちてる身元不明のモノを使う。
やってみたら結構手作り感が出てる。
シューズの紐も違う色のやつにしようか。
地面に生えている草を集めて繋げる。
それをシューズに通す。
めっちゃ手作り感出てる。
大作、半端ない。
もう少しいじってみようか。
あえてシューズの裏とかどうだろう。
普通は変えないよ。
だって見えない部分だからね。
でもあえて隠れたところに個性を出す。
オシャレじゃない?
ちょっと語尾をあげて若者を演じる俺。
見た目は65歳、心は10歳。
コナンと逆。
モテまくり。
こうなったらとことん改造しようじゃないか。
適当な大きさで裏部分の皮を剥ぎ取る。
そこにさっきついでに購入した子供用粘土を貼り付ける。
子供用だから安全な配慮がなされている。
う○ちを踏んでも口に入れられるくらい大丈夫なやつだ。
お~う、素晴らしい。
我ながらここまで作れるとは思わなかった。
こりゃどっからどう見ても手作りと思われる。
油性のマジックで俺の名前をさりげなく書いて、オリジナル感もバッチリ。
やっべ、マジやっべ。
65歳なのに超最先端。
ズボンもブーツカットにしちゃうか。
ジャケットも唐草模様にしよう。
・・・
3時間かけて戦いの道具は揃った。
どっからどう見ても最先端間違いない。
唐草模様のジャケット、ブーツカットのズボン、手作り感半端ないシューズ、そして極めつけはオリジナルの髪型。
美容院に行って散々注文をつけて仕上げてもらったやつ。
基本は坊主だが後頭部に顔の部分、つまり目と鼻と口の部分だけ髪を残す。
ただ既にいくらかハゲあがっているのでいびつな形だ。
ちなみに上手く首をすくめると後頭部で喜怒哀楽を表すことが可能だ。
素晴らしいではないか。
待てよ。
おれっていう才能をシューズメーカーに捧げてはもったいないのでは?
幅広いオシャレを演出できる会社の方がよくないか?
もしくは俺というブランドを世の中に広めるか?
迷うこと15分。
面接は受けないことに決めた。
これは正しい判断のはずだ。
俺は後世に残るようなオシャレの最先端を目指す。
ビルの屋上へと来た。
冷たい夜風が気持ち良い。
そしておもむろに裸になる。
身につけているものは全て綺麗に畳んでおく。
みんな驚くだろうな。
普通は手紙と靴だけ残すでしょ。
そう思いながら俺は夜の街にジャンプした。